新田次郎原作「剣岳 点の記」

北アに挑む愚直な庶民

撮影200日リアリティー追求

信濃毎日新聞 掲載

平成21年05月23日(土)


 諏訪市出身の作家新田次郎の小説を原作にした映画「剣岳 点の記」の全国公開(六月二十日)が迫ってきた。北アルプス・立山連峰で二年間、延べ約二百日にわたって撮影した異例の作品。映画のカメラマンとして知られ、本作で初めてメガホンを取った木村大作監督(69)は、映画のPRのため訪れた長野市で「すべてにおいてリアリティーを追求した。これぞ映画という作品」と話した。(渡辺知弘)

 明治時代末期、宗教上の理由から「死の山」と恐れられる未踏峰の剣岳へ、測量のための登頂を命じられた陸軍参謀本部陸地測量部の測量手、柴崎芳太郎(浅野忠信)と、現地の案内人、宇治長次郎(香川照之)らの苦闘と挑戦を描いた。

 制作のきっかけば、二〇〇六年二月、木村監督が能登半島に撮影旅行に出かけた帰りに立山連峰をカメラに収め、山を前に原作を読んだこと。「ヒーローではなく、黙々と仕事に献身した庶民の話。それを大自然の中で撮りたいと思った」と振り返る。

 木村監督が自らの「原点」と位置付けるのは、映画「八甲田山」 (森谷司郎監督、一九七七年)。真冬の八甲田山で雪の中をさまよう兵士たちの姿を撮影した作品だ。それに対し「今どきの監督はCGとかでごまかして撮るのではないか」と考え、自ら監督を務めることにした。

 一度、撮影で山に入ると約四十日間のロケが続く。「氷砂糖のような」雪が強風で顔に向かって吹き付ける吹雪の中でのロケや、わずか二カットのために山中を九時間歩いたこともあった。CGや空撮を一切使わず「神が許してくれた状況を撮る。だから時間がかかった」という。

 俳優のひげの伸び方など、細部のリアリティーを追求するため、実際の時系列と同じ順序で撮影する「順撮り」にもこだわった。「効率は考えず、まっとうに撮った。それに俳優さんたちもまっとうについてきてくれた」と喜ぶ大村監督は「映画ばかの集団で、おれがその親分」と笑う。

 与えられた任務に対し、愚直に立ち向かう柴崎らの姿を描いた本作。「雑にやったところはない」と木村監督が言い切る撮影の過程は、このストーリーとも重なって見える。「細かい描写から人間のたたずまいが見えてくる。穴が開くほど見てほしい」と木村監督は胸を張った。

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 「剣岳 点の記」は長野、松本、佐久、岡谷市で公開予定。二時間十九分。 

 長期のロケを敢行した「剣岳 点の記」の一場面 2008「剣 岳 点の記」製作委員会「原作はドキュメンタリーのような小説。ドラマをむりやり作るのではなく、淡々と撮ることにあこがれた」と語る木村大作監督