外国人遭難防止に課題

悪天候強行・軽装・保険未加入…

増えるツアー客「海外PR」指摘も

信濃毎日新聞 掲載

平成20年09月03日(水)


 北アルプス前穂高岳(三、〇九〇b)岳沢の登山道で八月十九日、韓国人登山ツアー参加者の男性(60)が体調を崩して死亡した遭難事故は、悪天候での登山強行やツアー会社の対応のあいまいさなどの問題点が浮き彫りになっている。外国人登山者増加など北アルプスの現状を踏まえ、 「遭難防止PRを海外で展開する必要がある」と指摘する山小屋関係者もいる。

 一行はガイド一人を含む二十-六十代の計十八人。十六日に来日し、翌日に上高地から入山、二泊三日で槍ヶ岳、奥穂高岳を登った。遭難は、穂高岳山荘から前穂高岳を経て上高地に下山する途中に発生。朝からの強い風雨に打たれながら歩いていた。

 午後四時すぎ、先に下山した人が上高地インフォメーションセンターを通じ110番。約二時間半後、北アルプス南部地区山岳遭難防止対策協会(遭対協)夏山常駐隊員二人が現場に着くと、ガイドと男性、友人の計三人しかおらず、ほかは下山していた。

 男性は意識が混濁し、レスキューシートなどで体を温めたが、午後八時前に心肺停止状態に。詳しい死因は不明だが、高血圧の持病を持つ上、長時間雨に打たれ寒さと疲れで弱っていた。同隊の猿田穂積隊長(73)は「同行者が交代で男性を担げば、助かったかもしれない」と話す。

 槍ヶ岳から前穂高岳までの稜線は、急峻な岩場や鎖場が点在する上級者コース。遭対協によると、男性が着ていた雨具は登山用ではなくナイロンのポンチョで着替えもなかった。ガイドも救助要請のための携帯電話などを持っていなかった。

 ツアーは、ソウル市内の旅行会社が企画した。同社によると、遭難した男性は「エベレストにも行ったことのある経験豊かな人」。四十代のガイドは登山歴約二十年で、ツアー前に参加者を集めた講習もし、準備や企画に問題はなかったとの認識だ。

 同社は「事故の対応は現場でガイドが判断する。現場のことはよく分からない」とする。だが、ガイドは片言の日本語しか話せず、遭対協の隊員が男性の容体把握などに苦労した。ツアー代金には保険代は含まれず、参加者は山岳保険に未加入だった。

 韓国人向け登山ツアーなどを企画する「立山山荘」社長の慮雲錫さん(49)=北安曇郡白馬村=は「多くの韓国人登山者は千b級の登山経験しかない。ツア-会社も含め、三千b級の山で天候急変などの危険性を十分に理解していない」と指摘する。

 北ア登山が人気の韓国。競争も激しく、悪天候でも登頂を成功させたことを宣伝文旬にするガイドもいるという。北ア山小屋友交会の穂苅康治会長(59)は「山小屋関係者が韓国に行き、日本の山の難しさや救助要請の仕方などを教えるような対策を取らなければならないのかもしれない」と話している。       (佐藤勝)