滑落の2人遺体収容 宝剣岳

信濃毎日新聞 掲載

平成20年01月23日(水)


 中央アルプス宝剣岳(二、九三二b)北側の稜線(りょうせん)で滑落した松本市岡田、無職佐野雅也さん(32)と上田市塩川、会社員藤森和美さん(29)の捜索で、県警は二十二日午前、滑落した稜線から約五百b下った沢と沢の合流地点で男女二人の遺体を発見、同日午後一時七分、県防災ヘリに収容した。駒ヶ根署は、遺体の身体特徴や家族の話から、二遺体を佐野さん、藤森さんと確認した。死因は脳挫傷。

 同署によると、二人はザイルでつながった状態で、同じ場所に倒れていたという。発見現場付近には、大量の血痕があったという。

 二人は佐野さんの妻(29)と三人で日帰りの予定で二十日午前九時に入山。下山途中、藤森さんが足を滑らせ、ザイルでつないでいた佐野さんとともに木曽側へ転落した。

難所「安全意識は…」山岳山関係者から指摘も

 駒ヶ根署や、藤森さんが所属していた山岳会などによると、佐野さん夫妻と藤森さんが登山するのは今回が初めて。冬山登山の経験も、佐野さん夫妻にはあったが、藤森さんにほあまりなかったという。冬の宝剣岳ほ「初心者にば難しい」とされており、お互いの力量を十分把握しない関係のまま臨んだことと合わせ、山岳関係者からは「安全意識が十分だったのか」との声も出ている。

 同署や地元道対協によると、三人は二十日午前九時に千畳敷を出発して宝剣岳に登り、別のルートを通り午後三時十分に千畳敷に戻る日程だった。藤森さんと親しい勤め先の同僚女性(30)は「一年ほど前から山が好きになってのめり込んでいると言っていたが、冬山に登ったとは聞いたことがない」と話す。

 冬山訓練で宝剣岳を使った経験のある地元遭対協の会員(73)は「稜線は言うに及ばず急斜面で、足を少し滑らせただけで谷底に転落する難所が多い。初心者には難しい」と説明。「もし初心者から一緒に登ってほしいと言われたら、断る」と話す。

 駒ヶ根署によると、佐野さんらはヘルメットを着用しておらず、斜面に打ち付けたくいに命綱を巻き付けるといった安全確保もしていなかったという。二人の遺体を収容した県警山岳救助隊員(36)は「せめてヘルメットは着用してもらいたかった」と言った。

 県山岳遭難防止対策協会講師の丸山晴弘さん(67)は「力量の分からない人といきなり冬山に登るなど考えられない。冬山の厳しさに対する現実感が薄れているのではないか」と話している。

写真:県防災ヘリで収容した遺体を運ぶ警察官ら=22日午後1時17分、駒ヶ根市赤穂