過去最多の 県内の夏山遭難

中高年8割体力自覚を

信濃毎日新聞 掲載

平成19年12月20日(木)


 「自分なりに準備したが、危ないと思った時に体が言うことを聞かなかった。やはり年かな」。千葉市の村上降さん(74)は、今夏の遭難事故を反省を込めて振り返る。

 八月九日朝、北アルプス・北穂高岳(三、一〇六b)から涸沢に下る途中、転倒して数b滑落した。県警ヘリで松本市内の病院へ。左手の小指と薬指を骨折、頭部を十二針も縫った。四カ月たった今も地元で週二回、左手のリハビリのため通院する。

 大学時代に山岳部に所属。製薬会社の営業マン時代も含め五十年以上の登山歴の中で、初めての遭難事故だった。

 今年の夏山シーズンは、県内で山岳遭難が多発した。好天続きで入山者が増えたこともあり、七、八月の遭難件数は九十一件九十二人で過去最多となり、十二人が死亡した(県警地域課調べ)。目立ったのが四十歳以上の中高年。遭難件数は七十三件で、全体の約八割を占めた。

 件数が三十四件と最も多かったのが北アルプス南部地区。救助やパトロールに当たった県山岳遭難防止対策協会常駐隊の山口孝同地区副隊長(60)は「足を上げたつもりが上がらず、岩につまずいたりして事故につながる。空同年ば加齢とともに体の動きが鈍ることをもっと自覚すべきだ」と注意を促す。

 定年を迎えた団塊の世代がツアー登山などで入山していることも、登山者増の一因となっている。中高年の遭難を年代別に見ると、七十代以上が十四件。県警地域課は「高齢化が進んでおり、遭難が起きるリスクは高まっている」と指摘する。

 信大山岳科学総合研究所で高地医学を担当する能勢博教授(単によると、一般的に人間の筋肉量は二十代をピークに年々減少。七十代になると、二十代のころの三−四割程度となり、ふらつきや転倒事故などにつながりやすい。能勢教授は「中高年が安全に登るには、日々のトレーニングを通じて筋肉を維持するとともに、体力に応じた山選びや時間設定が重要」と強調する。

 ツアーに参加したり、山岳ガイドを依頼したりと山へのアプローチ方法は多様化している。村上さんは今、冬でも暖かい千葉市と周辺の山を登り、日常的にスポーツジムに通う。半年に一回だった約三十`のウオーキングを事故後、月一回に増やした。「鍛え直して、もっと慎重に登ろう」。体力の衰えも知り、できる範囲で山に登っていきたいと感じている。

   (古志野 拓史)

写真:テントが並ぶ]ヒアルプス・涸沢。「昨年より入山者が多かった」と歓迎する声の一方、遭難件数も急増した=8月18日

 今夏の県内の山岳遭難 県警地域課によると、夏(7、8月)の入山者は前年より23%増の36万3000人。遭難は91件92人で、統計を取り始めた1954(昭和29)年以降で最多。件数は前年同時期に比べ38%増、遭難者も23%増えた。死者は前年同時期と同じ12人、けが人は約2倍の59人。「転滑落・転倒」が全体の約7割だった。山域別で亡封ヒアルプスが7割余を占める65件、八ヶ岳、その他がともに9件、南アルブス6件、中央アルプス2件。1月から12月16日までの遭難は163件、174人。