須坂・峰の原風力発電計画

環境に貢献・生態系心配

問われる市の判断

信濃毎日新聞 掲載

平成19年11月26日(月)


 須坂市峰の原高原に「IPPジャパン」(東京)が計画する風力発電施設をめぐり、地元住民らの間で賛成、反対双方の動きが続いている。中でも大きな争点となっているのが、高原の観光振興に与える影響だ。計画に賛同する地元スキー場が、反対派住民の経営するペンションにリフト券割引サービスをしない方針を決めるなど、地域内での対立を懸念する声も出始めた。地質や生態系、騒音などと異なり、観光面への影響を予測しづらいことが問題を複雑化させている。   (森健一朗)

 「風力発電に対する住民の考え方をスキー場が調べようとしている。住民の関係がぎくしやくするようになった」

 二十日、須坂市役所。風力発電計画に反対する「根子岳風力発電を考える会」の一員で、峰の原高原でペンションを営む冨田浩二さん(70)は、三木正夫市長にそう訴えた。同会など九団体でつくる連絡協議会はこの日、計画に同意しないよう求める五千九百人余の署名を市に提出した。

 風力発電計画をめぐっては、高原で峰の原高原スキー場やゴルフ場を経営する「菅平峰の原グリーン開発」(須坂市)が九月、今冬から計画にに賛同するペンションだ

けを宿泊者のリフト券割引サービスの対象とすると通知。その後、反対する施設に限ってサービスを打ち切る方針に変更した。

 同社によると、同高原旅館組合に加盟する宿泊施設五十八軒のうちこれまでに四十軒余が「賛同」「中立」の立場を示したという。一方で、一部のペンション経営者らには「やり方が強引だ」との批判もくすぶる。

 同社は「地球温暖化防止活動の先進地として峰の原をPRし、イメージアップや集客につなげたい」と説明。峰の原高原の二〇〇六年度の宿泊者数は約十万人で、一九九二年度の三十一万人余をピークに低落傾向が続く。「赤字続きでスキー場経営からの撤退も考えざるを得ない状況だ」と山根敏郎会長ば言う。

 風力発電施設予定地を所有する財団法人仁礼会(須坂市)や、同高原観光協会の役員らも、温暖化防止への貢献とともに土地の借地料収入や観光客の増加を期待し、建設に前向きだ。

 これに対し、「根子岳風力発電を考える会」の中島昭代表(74)は「峰の原を訪れる人は、山や自然が好きな人が多い。斜面に人工物が並ぶ景観は観光面でもマイナスだ」と主張。同会や県内の自然保護団体などでつくる連絡協は、予定地が水源や過去に土石流災害が起きた場所に近く、希少動物など生態系に影響を及ぼす可能性がある-と指摘、計画の撤回を求めていく構えだ。

 IPPジャパンは年内に、県条例に基づき環境影響評価(アセスメント)の手法を記した「方法書」を県に提出し、来年秋をめどに調査結果や環境保全措置などをまとめた「準備書」を公表する予定だ。現段階で具体的な設置場所などは示していないが、今後、根子岳登山道や須坂市街地、周辺の主な観光地からの眺望に風車を合成した写真を作成し「市民や観光客にアンケートをするなど、景観への影響も調べたい」としている。

 地元の峰の原高原区(九十六世帯)は、調査結果が出た後に、市の見解も踏まえて住民の意見集約を図る方針だ。ただ、区民からは「住民アンケートや投票などで結論を出すことになったとしても、住民同士の対立が高じて地域に溝を生まないか」と心配する声も出ている。

 賛成、反対派双方が市に相次いで申し入れ書や要望書を提出する中で、市はこれまでのところ静観の構えを崩していない。三木市長は「環境影響評価の結果や事業計画の将来性などを総合的に判断する」として、慎重に見極める姿勢を強調する。

 風力発電施設の建設では地元自治体の同意の有無が国の補助金を得る条件となっており、事実上の可否を左右する。市は地元の意向やアセスの態果などが出そろう来秋以降、同意の是非を判断する方針だ。

 ただ、県条例に基づくアセスは自然環境面の評価が中心。市が今後、対応を固める過程では、「対立点」となっている観光面への影響についての判断と説明が避けて通れない。

 風力発電事業をめぐる合意形成に詳しい丸山康司・東大教養学部特任准教授(環境社会学)は、行政と業者、地域が議論を重ね「風力発電が地域や住民とどう結び付き、どんな意味を持つものなのか、検証していく作業が必要だ」と指摘している。

写真:峰の原高原の風力発電施設建設予定地。根子岳中腹の斜面(中央)に十数基の風車が並ぶ計画だ=須坂市
写真:計画に反対する「根子岳風力発電を考える連絡協議会」が作成した風力発電のイメージ図。


 峰の原高原の風力発電施設建設計画 各地で風力発電を手掛けるIPPジャパン(東京)が事業主体。根子岳(2、207b)中腹の斜面に支柱の高さ70b、羽の長さ35bほどの風車を11−16基設置、中部電力に売電する構想だ。1基当たりの出力は1670kw。来年3月まで風況調査を行い、事業化のめどが付けば2009年度に国に補助金を申請し、着工したいとしている。

 県は今年6月県会で環境影響評価条例を改正、風力発電を環境影響評価(アセスメント)の対象に加えた。総出力1万kw以上の計画に、鳥類など動物、景観、水質など18項目の評価を義務付けており、同高原の計画も対象となる。