北ア「船窪小屋」営み50年超山の交流つづる一冊

女性経営者が自費出版

信濃毎日新聞 掲載

平成18年6月15日(木)


 北アルプス七倉岳(二、五〇九b)の山頂近くで「船窪小屋」を営む松沢寿子さん(70)=北安曇郡小谷村栂池=が、「私は山の上のお母さん」を自費出版した。父親の遺志を引き継いで五十年以上も小屋を守り続け、登山者から「お母さん」と親しまれる松沢さん。支える人たちとの交流や、百日間の山小屋日記をつづつている。

 船窪小屋は一九五四年秋、松沢さんの父親の福島宗市さん(故人)が建てた。翌年の冬、小屋の様子を見にいった父親が、雪崩に巻き込まれ亡くなり、当時十八歳だった松沢さんが「父親の恩いをかなえたい」と引き継いだ。六一年に宗洋さん(70)と結婚し、二人で運営している。

 山小屋は、高瀬ダムの北側にそびえる七倉岳の尾根筋にあり、立山連峰や穂高連峰を一望できる。電気は通っておらず、人気の登山コースからは外れているが、七-十月までのシーズン中に約千人が宿泊する。いろりとランプを使う素朴な雰囲気や夫婦の人柄にひかれた常連客りが、山道整備などを手伝っている。

 本には、山小屋五十周年の二〇〇三年のシーズンに、松沢さんが書いた百日間の日記を掲載。南米の楽器チャランゴの演奏に耳を傾けながら宿泊客と杯を重ねたパーティーや、初雪の朝朝に光リ輝く木々を一心に撮影したことなど、登山客や自然との触れ合いを明るく記している。小屋閉めの日には「夫と来し五十年の道険しくも、岳人(とも)との語り日々豊かなり」と歌った。

 全国のファンや山道整備などを手伝ったボランティアら三十七人も寄稿。アザミのてんぷらなど山の幸を使った名物料理の感想や、送迎時に鳴るシンポルの鐘の音を「鳴らし続けてほしい」などの思いを寄せた。完成したばかりの小屋の写真や、登山客が切り絵で描いた小屋の中の様子なども載せた。

 本の収益が出ればポランティアの交通費や山岳救助に充てたいという夫妻。「喜寿までは小屋を続けたい」と話している。今年は二十七日ごろ自宅から小屋に移り、七月一日に小屋開きする。四六判で二頁二十八n。千二百円(税込み)。信毎書籍で千冊印刷。大町市の塩原書店(電話0261・22・0076)で販売している。

写真:登山客との交流や山小屋日記をまとめ「私は山の上のお母さん」を自費出版した船窪小屋の松沢寿子さん