大日岳遭難死訴訟で富山地裁

研修登山注意怠る

国の過失初めて認定

産経新聞 掲載

平成18年4月27日(木)


 富山県の北アルプス・大日岳(二、五〇一b)で平成十二年、登山技術の向上を目的に旧文部省登山研修所が主催した研修登山で、学生二人が雪庇の崩落による雪崩で遭難死したのは国の責任として、遺族が約二億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、富山地裁は二十六日、国に一億六千七百万円の支払いを命じた。研修登山の死亡事故で、国の過失を認めた判決は初めて。

 雪庇は山の稜線の風下側にでき、雪が付着、堆積しながら成長する。ひさしの部分は踏み抜きや転落事故などが起きやすく、一般に進入してはならないとされる。

 判決理由で永野圧彦裁判長(異動のため佐藤真弘裁判長代読)は、引率した研修所の講師らについて「研修生の生命身体の安全を確保すべき注意義務を負っていた」と指摘。研修生ら二十七人が雪庇先端部分で休憩し、崩落したことには「登山ルートおよび休憩場所の選定判断に過失がある」と述べた。

 事故が発生した大きさ約四十bの雪庇について、地元登山家の情報などから「少なくとも二十五b程度の雪庇が形成されることは予見可能だった」とし、「講師らが十b程度と予測したのは妥当」との国の主張を退けた。雪庇への進入については「先端のみならず、全体に進入しないようルートを選ぶ注意義務があった」として、講師らの過失と事故発生の因果関係を認めた。

 十二年三月五日、旧文部省主催の「大学山岳部リーダー冬山研修会」に参加した学生ら二十七人が大日岳山頂付近で休憩中、雪庇が崩落し十一人が転落。雪崩に巻き込まれた東京都立大(当時)二年の内藤三恭司さん=当時(23)、横浜市保土ケ谷区=が同五月、神戸大二年の溝上国秀さん=当時(二〇)、兵庫県尼崎市=が同七月、それぞれ遺体で発見された。


 研修登山 冬山での遭難が後を絶たないことから、国や自治体が大学山岳部の学生や社会人などを対象に、登山技術の向上やリーダーとしての資質養成を目的に行う。旧文部省は昭和42年、富山県立山町に登山研修所を設置し、現在も定期的に研修会を開催。神奈川県なども施設を設け、研修登山を実施している。平成元年3月、長野県が北アルプス・遠見尾根で行った研修登山で、研修生が雪崩に巻き込まれて死亡した事故では、長野地裁松本支部が講師らの過失を認め、県に賠償を命じている。

大日岳遭難事故当時の
文部省登山研修所所長=現・大町山岳博物館館長/現・長野県山岳協会会長 柳沢昭夫氏

長野県山岳総合センター研修登山遭難事故当時の
研修会現地リーダー=現・長野県山岳協会副会長 宮本義彦氏