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北ア雪崩続発6人死亡 | |||||||
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北アルプスで八日から九日にかけて雪崩が相次ぎ、県内では山スキー中の三グルーブの計6人が死亡したほか、一人が意識不明の重体、二人が重傷を負った。岐阜県の笠ケ岳でも四人と連絡が取れなくなっている。
栂池高原 北安曇郡小谷村の栂池高原に八日入山したまま行方不明になっていた五人グルーブは、リーダーの新潟県糸魚川市、会社員本田博さん(57)が九日朝、同村の栂池自然園に下山。県警ヘリが自然園北西約七百bの雪原に倒れていた埼玉県鴻巣市の会社役員三浦秀敏さん(57)、三浦さんの長男で同市の会社役員三浦健太郎さん(29)、さいたま市の無職牧野憲一郎さん(68)を、上方の天狗原で糸魚川市の会社員佐藤照夫さん(66)をそれぞれ収容。三浦秀敏さん、牧野さん、佐藤さんの死亡を確認した。いずれも凍死。健太郎さんは意識不明の重体。
遠見尾根 同郡白馬村の白馬五竜スキー場上方の遠見尾根では九日午後一時十分ごろ、尾根の北側を山スキー中だった十二人のうち六人が雪崩に巻き込まれた。県警山岳遭難救助隊などがヘリで救出したが、長野市青木島の会社員濃香和幸さん(34)、東京都府中市の会社役員坪田秀夫さん(41)は収容先の病院で死亡が確認された。死因は濃香さんが窒息死、坪田さんは外傷性くも膜下出血。ほかに二人が重傷。一行は村内のペンションの宿泊客と経営者の男性だった。
安房山 松本市安曇の安房山では九日午後一時ごろ、九合目付近で雪崩が発生、山スキー中の四人のうち塩尻市広丘吉田の会社員伊藤弘毅さん(37)が巻き込まれた。県警ヘリが伊藤さんを発見したが、圧死していた。
笠ケ岳 岐阜県高山市の笠ケ岳スキー中に雪崩に巻き込まれ、現場から救出でも九日午前十一時ごろ、山頂南東で雪崩が発生。山スキーと登山で入山した計四人と連絡が取れなくなっている
仙丈ケ岳 南アルブス仙丈ケ岳の伊那市側の沢では九日午前六時ごろ、登山中の群馬県沼田市の男性(49)が雪崩に巻き込まれ、頭などに軽いけが。
写真:遠見尾根の北側で山スキー中に雪崩に巻き込まれ、現場から救出されて救急車に乗り込む人=9日午後5時2分、北安曇郡白馬村
北ア相次ぎ遭難 山スキー認識不足も
県内の北アルプスで計六人が死亡した八-九日の遭難は、いずれも山スキー中に雪崩に巻き込まれていた。尾根筋や樹林帯などを滑る山スキーは中高年を中心に人気が高まっている。近年はゴンドラやロープウエーで容易に標高の高い所まで行けるようになったが、相次ぐ遭難は、冬の厳しさが残るこの時期の山岳地域へ安易に入り込む危険を浮き彫りにした。
「ゲレンデスキーに飽きた中高年が山スキーに転向する例が増えている」。県山岳遭難防止対策協会講師の丸山晴弘さん(65)=長野市=は「スキーはできても、天候や雪崩に対する基本的な知識に欠けた人も目立つ」と指摘する。
大町署も「(五月の大型連休ごろの)春スキー感覚で入山しているのかもしれないが、今の時期は雪が不安定で雪崩が起きやすい。冬山で起こるアクシデントの想定が不足している」とする。
写真:栂池ヒュッテ(手前方面)に向かい、本田博さんが下りた斜面。ピパーク地点はヒユッテから約ー`、ほかの3人はヒュッテから700b付近で力尽きたという。ほかのスキーヤーが滑った跡も見える。9日午後2時20分、栂池ヒュッテ付近から
安曇郡白馬村の遠見尾根付近で遭難したパーティーは「リーダーやガイドは特におらず、話し合いでルートを決めていた」(同行した村内のベンション経営者)。パーティーの一人は「新雪が降り雪崩が怖いという話もしたが、尾根上を通り樹林帯を滑れば大丈夫-と誰ともなしに行くことが決まった」と話した。「四月にこれだけまとまった新雪は珍しく、(滑りたくて)判断が甘くなってしまった」
同郡小谷村栂池の遭難では、入山時からふぷいていたという。「雪崩に遭いに行くようもので、入山自体が無謀」と捜索に当たった地元の山岳関係者。
栂池の遭難現場に近い栂池自然園へ向かうロープウエーは昨ジーズンから、冬の自然を見てもらおうと運行開始時期を五月がら三月に前倒し。今シーズンは三月十一日に運行を開始し、三月末までに約千八百人が利用した。スノーシュー(西洋かんじき)などで一帯の散策を楽しむ人が多いが、白馬乗鞍岳山ろくへ山スキーに向かう人も百人ほどいたという。
運行する白馬観光開発栂池営業所の佐藤裕二所長は「ロープウエーの降り口では遭対協のメンバーが(装備などを)厳しく指導しているが、最終的に(入山や装備は)個人の判断になってしまう」と話す。
県警地域課によると、県内の今年の山岳遭難は九日現在、二十三件(死者十五人)で、前年同期の十一件(同五人)を上回った。北アでは七日にも、白馬岳近くの小蓮華山で三人が死亡しているのが見つかっている。
「引き返すべきだった」
栂池 「一晩中、震えていた」。小谷村栂池の遭難で自力下山した新潟県糸魚川市の本田博さん(57)は九日、大町署で状況を説明。「山スキー歴十年以上で、現場は何十回も訪れている」というが「(ルート途中の)天狗原で引き返すべきだった」と判断ミスを認めた。
本田さんによると、八日は入山時からふぷき、昼ごろ天狗原に着いた時点で視界は十b程度。降りる沢を誤り、引き返した方が安全と判断、ザックを下ろしスキーを外して準備中、小規模な雪崩に巻き込まれた。けがはなかったが、スキーも含め主な装備が流された。
栂池ヒュッテを目指して引き返したが、たどり付けずビバーク。本田さんは体力が消耗して十分な雪洞が作れず、体を雪に埋めるような状態で過ごしたという。
栂池ヒュッテの支配人吉岡豊彦さん(49)によると9日午前2時ごろ、本田さんたちから「スノーモービルで(救助に)来てほしい」と電話があったが、場所も分からず危険なため朝まで待つよう指示。夜が明け、下山してくる本田さんらがヒュッテから見え、やがて三人が動かな<なったという。吉岡さんは「ヒュッテ一帯は湿った雪で、二百b進むのに三十分以上かかる状況だった」と話した。
「足元から雪崩起きた」
遠見尾根 「尾根沿いに降りようと滑り始めた直後、足元から雪崩が起きた」。北ア遠見尾根で九日、雪崩に巻き込まれた六人のうち、無事だった千葉県船橋市の会社員堀口尚郎さん(38)は、白馬村内の医院で振り返った。
堀口さんによると、現場周辺は前日からの新雪が30-40a。雪崩を避けるため尾根伝いを滑ったが、雪は表面が硬く、下が軟らかい状態。スキーが埋まうて滑りづらく十二人が尾根の左右に二手に分かれる形で滑ったという。
その直後、一方の斜面で表層雪崩が起き、十b以内の、近い範囲にいた六人全員が巻き込まれた。「どれぐらい流されたかも分からなかった」。反対側斜面にいたメンバーに携帯電話をかけた。
雪崩の直後、周囲を見ると二人が雪の上にいた。ほかに体の一部だけ出ていた一人を掘り起こして人工呼吸をしたが、回復しなかったという。
先頭の男性が巻き込まれる
松本・安房山 松本市安曇の安房山で起きた雪崩で無事だった三人は、長野市の四十代男性、富山県内の四十代女性、愛知県内の五十代男性。八日に焼岳方面で山スキーをした後、ふもとの中ノ湯の旅館に宿泊。九日早朝、亡くなった塩尻市の会社員伊藤弘毅さん(37)と合流し、日帰りで安房山へ山スキーに出掛けた。
五十代男性によると、四人は安房山山頂で昼食を取り、午後零時半ごろ出発。間もなく雪崩が起き、先頭の伊藤さんが巻き込まれた。天候は晴れで、時折風が吹いていたという。
五十代男性は昨年、山スキー中に伊藤さんと知り合い、一緒に山スキーをしたのはこの日が三回目。ほかの二人は男性の知人という。