ガイド死亡3人救出

「下山途中道迷った」

信濃毎日新聞 掲載

平成18年3月16日(木)


 北アルプス唐松岳(二、六九六b)から下山途中に動けなくなり救助を求めていた愛知県内の四人グループは十五日午前八時ごろ、大町署が手配した民間ヘリコプターで救出された。四人のうちガイドを務めていた名古屋市、自営業桑原禎蔵さん(53)は、疲労による低体温症のため死亡しているのを、収容した大町署で医師が確認した。

 他の三人は大町市内や北安曇郡内の病院に運ばれた。名古屋市、自営業水野凱夫さん(67)と、豊田市、会社役員渋谷真雄さん(69)が手足に凍傷を負った。女性は疲労が激しいものの命に別状はないという。

 大町署の調べなどによると、四人は十一日に北安曇郡白馬村の八方尾根から入山。十二日午前、べースキャンプから唐松岳に登頂後、山頂から南西の富山県側約五百bまで迷い込んだ。雪穴を掘ってビバークし、携帯電話で救助を求めていた。

 調べに、水野さんは「山頂がふぷいていたのですぐに下山したが、道を誤った」と話しているという。当時、四人が持っていた食料はあんパン数個と菓子程度だった。

 救助要請があった13日は天候が回復せず捜索は難航。同署は携帯電話で四人と連絡を取り、体調などを確認していた。

 桑原さんのガイド仲間が14日、山頂付近を捜したが4人を見つけることはできなかった。桑原さんはこの日、雪穴の周囲で視界の良い場所や捜索の目印になるものを探し歩いたという。

 桑原さんは15日午前4時ごろ呼吸をしなくなったという。同署は、空腹で寒気の中を動いたことが体力の消耗を招いたとみている。

 遭難者の一人は「自分たちのためによくやってくれた」と話したという。

入山しやすさ裏目に

 愛知県内の四人グループが遭難した北アルプス唐松岳ではこの冬、下山途中にルートを見失い救助を求めるケースが相次いでいる。地元の山岳專門家は、気象が厳しい冬山にもかかわらず、ゴンドラリフトなどを使って初心者でも入山しやすいことが遭難につながっている可能性を指摘する。

 唐松岳では一月上旬、千葉県の男性が下山中に悪天候で斜面に迷い込み、救助を要請。二月下旬には愛知県内の夫婦が下山中に迷って雪崩に巻き込まれた。いずれも携帯電話で救助を求めた。

 唐松岳から東の八方尾根は、標高約千八百b地点まで八方尾根スキー場のゴンドラリフトとリフトで行くことができ、携帯電話も通じる。大町署は「天候に恵まれ装備を調えていれば、比較的簡単にこなせる山」とした上で、「天候が荒れれぱ広い尾根が方向を見失わせ、一転難しいコースになる」と指摘する。

 北ア北部地区遭対協の降旗義道救助隊長(58)も「北ア北部は豪雪地域にある。3月でも天候が急変し、大雪になるおそれがある」とする。

 今回の4人は、曇天だった12日、八方尾根上部の丸山ケルン(約2400b)付近に設営したテントを出発。山頂付近では悪天候となの、登頂後、道に迷い動けなくなった。同署は日程に予備日がなかった点を挙げ、「悪天候で動けなくなることが想定されていなかった」とみる。

 今回は、携帯電話で連絡を受けた家族が警察に届け出た。同署は、その後は連絡手段が途絶えないよう不使用時は電源を切らせ、時間を決めた連絡に切り替えさせた。同署は、登山時は電池が消耗しないよう心掛け、どこで電波が届くか常に確認するよう呼ぴ掛けている。

写真:1人が死亡、3人が救出された唐松岳の担索を終えた救助隊員ら。後方の自鳥八方尾根スキー場の奥が唐松岳=15日午前8時50分、白馬村松川河川敷