日本山岳会100年 中央分水嶺踏査

創立時の心意気追求

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読売新聞 掲載

平成17年12月7日(木)


 2005年10月に創立百周年を迎えるにあたり、日本山岳会では、全会員の参加をモットーとした様々な企画が提案され、実行に移されている。なかでも、国内登山の部として位置づけられた中央分水嶺踏査事業は、北海道・宗谷岬から九州・佐多岬に至る約5000`の分水嶺上を、多くの会員が参加して線で結んでみようという初めての試みである。

 「未知のものに挑むパイオニアスピリット」−日本山岳会創立当初からのモットーを追求する機会は、21世紀の今日、国内にそう多く残されてはいない。その中にあって、百周年事業に最もふさわしい企画として立案されたのが、この事業である。全体の約70%は登山道がなく、しかも、ルート選定に難渋を強いられる場所が多数あり、相当の困難さが予想された。この事業に参加することにより、現会員が、先人の刻んできた心意気に少しでも触れ、日本山岳会百年の歴史の重みを感じとることができれぱ、これに勝るものはないと考える。

 一方、今回の分水嶺踏査では、GPS(全地球測位システム)を全面的に取り入れ、安全な登山を志向することはもとより、ルート選定にも大いに役立てている。従来、使用しているコンパスや高度計と組み台わせることによって、正確な位置確認、目標地点へのガイドに大きな威力を発揮している。山行結果は逐次ホームページ上に掲載し、進捗状況がいつでも見られるようにしている。このように、新しい時代にふさわしい手法も積極的に取り入れている。

 また、分水嶺上の三角点の保存状況や2・5万分の1地形図との相違、植生など自然環境の現状、分水嶺を境とした文化の違い、分水嶺にまつわる秘話などの調査も出来る限り行っており、その成果は山行報告書の形で、ホームページ上で公開している。

 当初は、会員の平均年齢が60歳を超える日本山岳会の現状から困難すぎると、多くの批判、意見が寄せられた。しかし、若い時に藪漕ぎの経験をした会員も多く、いざ企画が実行に移されると、着実に線を延ばし、現在約9割が踏査済みである。来年5月には全区間の踏査を完了する予定である。

 なお、同事業の全容は、山行報告書とともに、来年12月をメドに最終報告書として出版を予定している。

(日本山岳会森武昭・中央分水嶺踏査委員会事務局長)


 日本山岳会(平山善吉会長)が創立100周年事業の一環として取り組んでいる国内の中央分水嶺踏査は約9割を終了した。太平洋側と日本海側を分ける約5000`の中央分水嶺は"日本の背骨"でもあり、そのルートには山岳地域のほか、空港敷地内やゴルフ場、自衛隊の演習地など、登山とは無縁の場所も少なくない。踏査は来春まで続けられ、来年の暮れに報告書としてまとめられる。

ゴルフ場横断

 熊本・大分県境の九重山麓瀬の本高原から、熊本・富崎県境の自髪岳南麓までの約180`を担当する熊本支部。調べてみると、そのルートは、ゴルフ場を横切っていた。分水嶺は9番ホールのグリーン上。ゴルファーの中には、何も知らずに太平洋側から有明海側に抜ける"中央分水嶺通遇パット"を決めている人も。

 山梨支部でもルート上にゴルフ場を発見。関係者の了解を得て、ゴルフコース内を踏査した。隣接するホテルからも通過の許可をもらったが、さすが「遠慮しました」という。

 このほかにも、ルートがゴルフ場を通過するケースが多く、踏査した会員たちは「ゴルファーが、私たちのギャラリーのようなもの。何となくいい気分でした」と笑っていた。

演習地もゆく

 北から南までの中央分水嶺ルートには、自衛隊の演習地も含まれている。砲弾が飛ぴ交う演習時間だけでなく、通常も立ち入り禁止の地域だ。ある支部は自衛隊と何度も交渉し、ようやく許司が下りた。

 広報隊員らと同行しながら、旧陸軍時代の射撃指示台の跡地や、着弾を確認する半地下式の堀を通過。砲弾の破片が飛ぴ散る実弾射撃の着弾地も歩いた。踏査した会員たちは「自衛隊の協カに感謝している。いつもは歩けない場所に入れて感動した」と口をそろえる。

藪、藪、藪

 山形支部が担当する中央分水嶺ルートは、約125`。このうち、登山道が整備されているのは約45`。残りのルートは、藪、また藪…。

 地元でクマの生息地で知られる番城山では、高さ2bを超えるチシマザサが密生。200bを進むのに2時間もかかるなど、悪戦苦闘の連続だった。また、栗子山では、クマを追い払うため、笛を吹きながら踏査を進めた。

 福島県境では、藪と濯木で9割近く道がなかった。残雪期以外の縦走記録もなく、難所の連続。数回にわたって、ルートを外れるハプニングも。

日本山岳会100周年記念事業 国内の中央分水嶺踏査のほか、海外登山や日本人がたどった海外の山岳地域や辺境地などのツァー、記念史の刊行。また、山岳写真展や各支部の山岳フォーラムなどが行われている。

中央分水嶺 日本山岳会によると、中央分水嶺は太平洋側と日本海側の水系を分ける境界。距離は北海道の宗谷岬から鹿児島の佐多岬までの約5000`で、最高地点は乗鞍岳(3026b)、最低が北海道・新=20b地点。火山希山など一部の地カでは各支部がルー進めている。